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労働生産性と最低賃金

日本の労働生産性が先進諸国の中でもとりわけ低いことは、既に広く認識されていることと思います。

 日本生産性本部によれば2017年の日本の時間当たりの労働生産性は47.5ドルで、主要先進国中で最下位。1位の米国は72ドル、2位のドイツは69.8ドルですので、日本の生産性は米国やドイツの3分の2程度ということになります。

 一方、日本の生産性の低さは今に始まったことではなく、40年以上も前から先進国では最下位という状況が続いていることはあまり知られていないかもしれません。

 日本の労働生産性は1970年代から先進国中最下位で(製造業種を除けば)ほとんど向上していないのが現実だと言われています。

 世界でも類を見ない急速な高齢化と生産年齢人口の激減が予測されている日本では、労働生産性の向上が望みの綱と言われています。平成の時代が終わりを告げようとしている現在、果たして日本経済はどのような未来に船出していこうとしているのか。

 4月5日の東洋経済オンラインは、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏による、「危機感をもって『本質』を徹底的に追求せよ」と題する興味深い論考を掲載しています。

 経済規模を示すGDPは、「GDP=人間の数(つまり人口)×1人当たりの生産性」という式で表すことができる。つまり、人口が減少するこれからの日本では生産性を上げないと経済の規模が縮小していくのは自明だと、アトキンソン氏はこの論考に記しています。

 生産性を上げるとは、労働者の給料を上げるということ。人件費をGDPで割れば、労働分配率が求められる。つまり、生産性と労働者の給料は表裏一体の関係にあるというのが氏の基本的な認識です。

 氏によれば、生産性向上にコミットする経済政策を「High road capitalism」と呼ぶとそうです。そして、その反対が「Low road capitalism」。価格競争に勝つことによって利益を上げる手法だということです。

 簡単に言うと「High road capitalism」とは、高生産性・高所得の経済モデルだと氏は言います。「High road capitalism」の根本的な哲学は「価値の競争」。市場を細かく分けて、セグメントごとにカスタマイズされた商品やサービスで競い合うのが競争原理だということです。

 このため、High road capitalismを志向している企業は、商品をいかに安く作るかよりも作るものの品質や価値により重きを置く戦略を採る。他社の商品にはない差別化要素であったり機能面の優位性であったり、とりわけ、いかに効率よく付加価値を創出できるかを追求するのが経営の基本だとアトキンソン氏はしています。

 最も安いものではなく、ベストなものを作る。そのスタンスの裏にあるのは、顧客は自分のニーズにより合っているものにプレミアムな価格を払ってくれるという信条だということです。

 さて、このHigh road capitalismを追求するにはもちろん最先端技術が不可欠で、さらにそれを使いこなすために労働者と経営者の高度な教育も必須になると氏は言います。

 一方、「Low road capitalism」は、(氏によれば)1990年代以降まさに日本が実行してきた戦略だということです。

 規制緩和によって労働者の給料を下げ、下がった人件費分を使って強烈な価格競争を繰り広げること。

 しかし、Low road capitalismによって短期的に利益が増えるのは、技術を普及させるための設備投資が削られ社員教育も不要になり、研究開発費も削減されるから。すなわち、経費が減っているからにすぎないというのが氏の見解です。

 Low road capitalismは先行投資を削っているだけなので、当然、明るい将来を迎えるのが難しくなる。その姿はまさに今の日本経済そのものだと氏は厳しく指摘しています。

 勿論、「Low road capitalism」下でも経済は(それなりに)成長するということです。しかし、そのためには人口が増加していることが条件となる。人口が減少していると、「Low road capitalism」では経済は成長しないと氏は断じています。

 アトキンソン氏は、本来「Low road capitalism」は、他に選択肢のない途上国がとるべき戦略だと説明しています。一方、先進国である日本は高い新たな価値を生み出す創造性の高い「High road capitalism」を目指すべき。なぜならば、「High road capitalism」こそが、人口減少・高齢化社会に対応可能な経済モデルだからだということです。

 そうした中、人口減少にどう立ち向かったらよいかについて、日本で行われている議論の多くは本当に幼稚だというのが氏の指摘するところです。

 今、日本が直面している人口の激減は、誰がどう考えても明治維新よりはるかに大変な事態で、対処の仕方を間違えれば日本経済に致命的なダメージを与えかねない一大事だと氏は言います。

 それほど大変な状況に直面しているというのに、日本での議論はなんとも「呑気」で、危機感を覚えているようにはまったく思えない。こういう議論を聞いていると、正直、どうかしているのではないかとすら思うと氏は言います。

 労働者一人一人の生産性を上げていくためには何をすべきか。我々日本人ものんびりと日々を過ごしてばかりはいられないようです。






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