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不足しているのは経営能力

不足しているのは「人手」ではない

日銀が3月26日に発表した今年2月の企業向けサービス価格指数(2010年平均=100)は105.1と、前年同月比で1.1%上昇しています。前年を上回るのは68カ月連続となり、人手不足などを背景に特に道路貨物輸送や労働者派遣サービス業種での上昇が目立つということです。

 日本では生産年齢人口の減容などから、人手不足が深刻化しているといわれています。有効求人倍率は好景気を背景に2010年以降上昇を続け、18年には1.61倍と、1973年の1.76倍に次ぐ過去2番目の高水準を記録しました。

 これに伴い、民間調査会社の帝国データバンクは(いわゆる)「人手不足倒産」が年々増えていると警鐘を鳴らしています。

 2018年1年間で、従業員の流出や採用難などが最も大きな理由になって倒産した企業は153社。「人手不足」が叫ばれ始めた2013年から始めた調査の中では2018年の件数が最も多く、この5年で4.5倍にまで膨らんだということです。

 先の国会では、入管法の改正による外国人材(労働者)の活用が大きな議論を呼んだところですが、果たして本当にこの「人手不足」というものがこれからの日本経済の大きな足枷となっていくのでしょうか。

 こうした懸念に対し今年1月18日の東洋経済オンラインには、かつてゴールドマン・サックスで「伝説のアナリスト」として名をはせた小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏が、「人手不足は労働条件が酷い会社の泣き言だ」と題するかなり手厳しい内容の論考を寄せています。

 アトキンソン氏はこの論考で、これまで日本が約30年にわたって苦しんできたデフレの主因が、規制緩和が悪用され労働分配率が低下したことにあると見ています。そして、もしも(この流れを)賃上げに方向転換させることができれば、日本も再び経済を成長させられるというのがアトキンソン氏の分析の結論です。

 日本ではすでに人口減少が始まっており、労働市場の需給バランスが崩れ、供給側、すなわち労働者側に有利になっている。その結果として賃上げ圧力が徐々に強まっていることは、(つまり)大いに歓迎するべき傾向だと氏は説明しています。

 職を求める人があふれていた時代は終わり、今や労働者は貴重な資源に変わりつつある。こうした時こそ日本は新しい技術を広く普及させ、生産性を高めて高生産性・高所得の経済モデルにシフトするべきだということです。

 さて、現在、人手不足が深刻になっているのはいわゆる3K(危険、汚い、キツイ)業種だと言われていますが、(その真偽はともかくとして)飲食業や宿泊業、営業、医療などでも人手不足が叫ばれているのは事実だとアトキンソン氏は指摘しています。

 人手不足がひどいと言われている(こうした)多くの業種には、ある共通の特徴が存在している。それは労働条件が過酷であることで、特に非正規労働者が多く、賃金水準が非常に低い業種ほど人手不足が目立つということだと氏は言います。

 今後はさらに人口が減るので、日本ではこのような過酷な条件でも働きたいと考える人はどんどん減っていくだろう。労働市場がタイトになればより良い条件で仕事が見つかるようになるので、今のような過酷な条件で働かなくてはいけない人はさらに減るというのが、今後の労働市場に対するアトキンソン氏の認識です。

 直近の求人倍率から見て取れるのは、求人倍率が実際に上昇しているのは(中小企業を中心とした)給与水準が低い職種であり、(それ自体)日本人労働者が給料水準の低い企業から次第にいなくなっていることの表れだと、氏はこの論考に記しています。

 今までの日本では、企業経営者たちは優秀な人材を数多く、しかも世界的に見ると異常なまでに安い賃金で調達することが可能だったと氏は言います。

 そうした環境を前提としたまま、従業員の給与を安く押えないと存続できないけれどもそこで働きたい人はいないという状況が生まれている。そして、これが現在の「人手不足」の正体だというのが氏の認識です。

 こうした現状を踏まえ、アトキンソン氏はこの論考において、高齢化に伴って需要の中身が変わったのであれば日本企業はそれに対応する努力をすべきだと強く主張しています。

 たとえば、何人も何人もの人間が雁首そろえて長々と話しても、何も決まらない会議。経営者にしてみれば、労働者の時間単価が安いから、どんなに会議が長くて無駄が生じても、気にもならない。

 さらに女性の活躍が日本でなかなか進まないのも、原因は同じところにある。最低賃金で最も多く雇われているのは女性であり、日本の最低賃金で女性を雇って年間2000時間働いてもらっても、年間の賃金は200万円にもならないということです。

 そこで、この際(いっそのこと)賃金を倍にしてみたらどうかと氏は言います。大した給料を払っていないから客観的に見てあまり必要がない仕事でも頼むし、技術を導入する必要もないし、会社のあり方を変えようというインセンティブも生まれない。安い給料で人材の調達が可能だから、(日本企業には)無駄が蔓延してしまっていると氏は指摘しています。

 このように、「無駄に使ってきた日本人労働者が減るから人手不足だ」と考えるのはあまりにも短絡的だというのが氏の見解です。なぜなら、そこには仕事を効率化してより生産性の高い仕事に変えるという選択肢もあるから。生産性向上による緩和策を打てば、その分だけ人手不足は解消されるということです。

 極めて短期的に考えれば、外国人労働者の受け入れ拡大は、日本経済にとっての特効薬に見えるかもしれない。しかし、(一度始めたらもう元には戻れないこの試みは)日本の歴史に残る大きな間違いに終わる可能性も極めて大きいと、氏はこの論考の結びに懸念を表しています。

 外国人を簡単に受け入れる前に、もっと真剣に生産性向上に取り組む必要がある。ほかにもやるべきことはいくらでもあるはずだと氏はこの論考で述べています。

 結局のところ、今の日本企業に不足しているのは「人手」ではなく「経営者の能力」ではないか。

 まずは、「労働者は安く雇って無駄に使うのが当たり前」という、世界的に見て非常識な日本企業の経営者のマインドを変えることから始める必要があると指摘するアトキンソン氏の指摘は興味深い。






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